子宝寺の秘密


 

 興(現浙江省)の精巌寺(せいがんじ)は名刹(めいさつ)であった。
 ある僧侶がここに仏殿を建て、内部に大きな仏像を安置した。そして子宝を得たい女性が一人でこの仏殿にこもって一晩過ごせば必ず願いがかなう、と触れ回った。女性が仏殿にこもる際、その扉は家族が閉じることになっていた。それで、多くの女性が安心して子宝を願ってこの仏殿にこもった。
 実はこの僧侶、とんでもない破戒僧で、ひそかに自分の部屋から仏像の内部まで地下道を掘っていた。真夜中になるとこの地下道を通って仏殿に忍び込むのであった。女性が驚いて目を覚ますと、
「私は仏だ。そなたに子種を授けてやろう」
 と言って手込めにしていた。
 被害にあった女性は誰一人このことを口外しなかったので、事実が明るみになることはなかった。

 ある官吏の妻が子宝を願ってこの仏殿にこもった。夜中に人の気配を感じて目を覚ますと、僧侶がいきなり襲いかかってきた。妻があわてて鼻に噛みついたところ、僧侶は逃げ去った。
 翌日、妻から事情を聞いた官吏は、大勢の家来を引き連れて寺中くまなく家捜しした。すると、僧侶が顔に包帯を巻いて臥せっていた。包帯をほどくと、果たして鼻に噛み傷がある。そのまま捕らえて役所に突き出した。

 僧侶は流刑に処せられ、寺はつぶされた。

(宋『行都紀事』)