氷 の 箸


 

 至に大雪が降った。昼になってようやく雪はやみ、晴れ間が見られた。寒気厳しい折であったので、軒のしずくが凍ってつららとなった。
 楊貴妃は侍女に命じて長さ、太さの揃ったものを二本折り取らせると、それを賞玩して楽しんだ。
 夕刻、玄宗が政務を終えて後宮に戻ると、楊貴妃が何やら楽しそうに眺めているので、
「それは何かね?」
 と、たずねた。
「これは氷のお箸ですのよ」
 楊貴妃の答えに玄宗皇帝はニッコリと笑った。
「貴妃は賢いね。何て可愛らしいもののたとえをするのだろう」

(五代『開元天宝遺事』)