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狂犬


 

 西の一部の村では、犬を飼って食用にする風習が残っている。

 ある夏のことである。この年の夏はとりわけ暑かった。その猛暑の中で犬たちが突然、狂ったように暴れ出し、人を襲って死に至らしめるという事件が続出した。ひどい時には一日の死者が百人を超えることもあった。
 困った村人は術士を呼んでお祓(はら)いをしてもらうことにした。すると、犬たちは術士の前に集まり、後ろ足で立ち上がって口々に吠え立てた。どうやら術士に自分たちの置かれた立場を懸命に訴えているようである。術士の方でもその訴えに耳を傾け、時折、何やら言い聞かせている。
 何度かやり取りをくり返した後、犬たちはガックリとうなだれて涙をとめどなく流した。
 術士が己の指を噛んで血を出して口に含んで吹きかけると、犬たちは四散した。どこへ行ったのかはわからなかった。

(清『夜譚随録』)