無鬼を語る


 

 孺愛(きゅうじゅあい)と張文甫(ちょうぶんぽ)はともに老いた儒者で、弟子を集めて学問を教えていた。
 ある時、二人で村はずれの荒地を散策した。行き交う人の姿もなく、うっそうと生い茂る藪(やぶ)の中に土饅頭の姿がのぞいている。張文甫は背筋にぞくぞくするものを感じ、
「墓場には幽鬼が多いから、長居はよくない」
 と言って引き返そうとした。そこへ一人の老人が杖をつきながらやって来た。老人は二人に向かって挨拶をすると、こう切り出した。
「この世に幽鬼がいるなどと本気でお思いなのですか?阮瞻(げんせん)の無鬼論はご存知でしょう。お二方は儒者なのに、どうして僧侶の説くでたらめを信じるのです」
 そして、老人は程子や朱子の陰陽の原理を説きあかしたのだが、非常に理路整然としていて、二人はひたすら感心するばかりである。論の展開のみごとさに、老人の名前をたずねることも忘れていた。
 牛車の近づく音が聞こえてきた。
「そろそろ行かなければ」
 老人は衣をふるって立ち上がった。
「泉下(せんか、あの世のこと)にある身は孤独でしてな。無鬼論でも披露しなければ、あなた方お二人をお引き止めすることはできなかったでしょう。これにて失礼いたします。どうかあなた方を愚弄(ぐろう)したなどと思わないで下さりませ」
 そう言って姿を消した。

(清『閲微草堂筆記』)