青磁の碗


 

 東(はとう、注:現湖北省)下岩の寺の住職が汀(みぎわ)で青磁の碗を拾った。寺に持ち帰り、花を一輪活けて仏前に供えた。翌日になると、花は碗に満ちていた。米を少し入れておくと、翌日には米は碗いっぱいになっている。銭や金銀を入れた場合でも、翌日には碗いっぱいに増えているのである。
 この碗を得てからというもの、寺は裕福になっていった。寺中が碗を得たことを喜ぶ中、住職だけが複雑な表情を浮かべていた。

 歳月が過ぎ、住職は年老いた。ある日、住職は弟子達を連れて長江を渡った。その途中、住職は懐から碗を取り出すなり、長江に投げ捨てた。
「ああ、もったいない!!」
 弟子達がさかんに惜しがると、住職は言った。
「ワシが死んだら、お前達は昔のように慎んで暮らすことができるだろうか。あの碗を捨てたのは、お前達にこれ以上罪を重ねさせないためなのだ」

 ほどなくして住職は亡くなった。

(宋『秘閣閑談』)