嘉十九年(442)のことである。
 長山(現浙江省)の留元寂(りゅうげんじゃく)が一匹の狸を捕まえた。腹を裂くと、中から狸がもう一匹現れた。その狸の腹を裂くと、またもや狸が一匹出てきた。この三匹目の狸の腹を裂いたところ、ようやく内臓が現れた。
 三匹の狸はぴったりと重なっていたのだが、大きさはまったく同じであった。元寂は特に不審にも思わず、家の裏にこの三枚の皮を干しておいた。
 その夜、狸の群がこの皮を囲んでさかんに鳴き騒いだ。翌朝になってみると、干しておいた皮は三枚とも失われていた。

 元寂には、何の怪異も起こらなかった。

(六朝『異苑』)