つ ぼ


 

 の徳宗の御世(780〜804)のことである。
 ある役人が馬から落ちて足を痛めた。さる名医に針を打ってもらったところ、シューッと蒸気のようなものが吹き出して針を抜くことができなくなってしまった。役人は猛烈に体がだるくなり、夜になると昏睡状態に陥った。これには名医も手の施しようがなかった。
 その時、一人の道士が訪れた。
「それがしなら治すことができます」
 道士は名医が針を打った場所を見るなり責めた。
「何とうかつなことを!人の生死をつかさどるつぼは、紙一重で隣り合っているのですぞ。人の血脈は河のように相連なっているのですから、慎重に要所を見きわめて針を打たなければなりません。名医の誉れ高いあなたも、今回は打つべきつぼを間違えたようですな」
 そして、左足の気の満ちているところを示した。
「ここに針を打てば、もとの針が飛び出します。天井まで届きますから気をつけて」
 そう言って一寸ほど深く打った。すると、もとの針がものすごい勢いで飛び出し、まっすぐ天井まで届いた。傷口はすぐにふさがり、蒸気の噴出も止まった。役人の病状も回復した。
 役人と名医は道士を拝礼し、黄金や絹を謝礼として贈ろうとした。しかし、道士はいっさい受け取らず、茶を一杯すすってから立ち去った。どこへ 行ったのかはわからなかった。

(唐『逸史』)