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夜だけの美女


 

 る屠殺業者が女房を娶った。
 髪はボサボサ、乱杭歯(らんぐいば)をむき出にし、鼻は低くて眼はくぼみ、顔は大きくて色黒、首が短くて頭は肩にめり込み、体は左右にかしいでいる。出ばらの出っちりで、曲がった足はまっすぐ歩くこともできない。このすさまじいほどの醜女(しこめ)がやたらとめかし込むものだから、見る者は辟易(へきえき)した。
「よくあんな醜女を娶ったものよ」
 と、皆はあきれた。しかし、当の亭主の方にはこの女房が絶世の美女に見えるようで、すっかり惚れ込んでいる。
 ある人が、冗談半分にたずねた。
「あの女のどこに惚れてるのかね?」
 亭主はウットリとし表情を浮かべてこう答えた。
「毎晩、床の中で灯りを暗くすると、すばらしい別嬪(べっぴん)に見えるんだ。その別嬪がオレに向かってニッコリ微笑んだら、もう我慢できない。抱き合うと腰はナヨナヨ、肌はスベスベ、何ともいえないよい香りが漂ってくる。こちとらもうグニャグニャさ。不思議に思ってたずねてみると、本人もわからないという。試しに灯りで照らしてみると、元の姿に戻るけど、灯りを消すとまた別嬪になっている。だから、オレはあれに惚れてるのさ」
 あまりに馬鹿げた話なので、誰も本気にしなかった。しかし、あんな醜女に心底惚れ込み、嘘までつく必要があるのだろうか、と噂し合った。

 その噂を耳にした亭主、たいそう腹を立てた。どれほど口で説明してもわかってもらえないのなら、証明する方法は一つしかない。そこで、村の不良を家に引き入れ、実地に女房を試させた。暗い灯りの中で女房を抱いてみると、果たして亭主の言うとおりであった。
 以来、この女房と寝たいと思う連中は、わざと亭主の言葉を信じないふりをすることにした。そうすると、亭主はやっきになって女房を試させるのである。
 しばらくすると、村中の男でこの女房を試さなかった者はいなくなり、屠殺業者の家は売れっ子を抱えた娼家のようなにぎわいを見せた。
 ある晩、亭主が床に入ると、枕元で声がした。
「その方の家は娼家となるべき定めにあったが、客を招くすべがないため、女房の形を変えてやったのだ。我は樊黒黒(はんこくこく)なり。これにて立ち去るぞよ」
 その後はしんと静まり返った。女房を見てみれば、昼間の醜い姿に戻っていた。

 この晩を境に女房は夜になっても、醜いままであった。こうなると亭主は女房の醜さを嫌って、一晩に何回も起き出して眠れなくなってしまった。やがて寝床を別にするようになった。
 女房を試しに来ていた連中も、さっぱり寄りつかなくなった。

(清『耳食録』)