天の川
旧説によると天の川と海は通じているという。
ある人が海辺に住んでいた。毎年八月になるとどこからか筏(いかだ)が流れてきて、いずこへか流れ去っていくのを見て不思議に思った。それは決まって八月に見られる現象なのである。この人は一つこの謎を見極めてやろう、と筏を改造し、それに食料をたくさん積み込んで流れに乗り出した。十ヶ月あまり漂流を続けた末、奇妙な場所に到着した。
そこには城郭があり、いかめしい御殿がそびえている。遥かに望めば、御殿の奥深くでは女が一人、織り機に向かっている。岸辺に男が一人、牛を牽いてやって来ると、汀(みぎわ)でて水を飲ませ始めた。その男は筏に乗った人の姿を見ると、驚いて言った。
「どうやってここに来たのです?」
そこで、その人は毎年流れてくる筏を不思議に思い、その謎を見極めようとこうしてやって来たことを告げた。今度は逆に、ここはどこなのか、と質問してみた。すると、男が答えて言うには、
「戻ったら、蜀都(注:現四川省成都市)の厳君平殿を訪ねられよ。そうすればわかりますから」
とのことであった。結局、岸には上がらずにそのまま流れに乗って戻ることにした。
故郷に戻った時には、ちょうど翌年の八月になっていた。
後に蜀都に赴き、厳君平を訪ねてみた。厳君平は話を聞くと、納得した様子でこう言った。
「某年某月に見知らぬ星が牽牛星に近づくのが見えたのだが、それはお前さんだったようですな」
『道書』によれば、牽牛は織女を娶る時、天帝から二万銭を借りて進物を整えた。いつまで経っても借金を還さなかったので、天帝に営室(注:ペガサス座の付近)の彼方へ追放されたとのことである。(六朝『荊楚歳時記』)