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笛 の 音


 

 人小説に記されている話である。

 [門+昌]巷(しょうこう)に貧しい餅売りがいた。笛が大好きで、笛さえ吹けばどんなにつらいことでも忘れられた。餅売りはわずかな儲けを得ると、まっすぐ家に帰り、笛を吹いて心を慰めていた。

 隣に住む金持ちが餅売りの実直な性格を見込んで、千銭あまりを贈った。餅売りもはじめは固辞したが、説得されて受け取ることにした。

 餅売りは銭が手に入ったので、細々と続けていた商売をやめて思う存分笛を吹いて暮らすことにした。しかし、笛に口を当てると、澄んだ笛の音ではなく、算盤を弾く音が聞こえてきた。

「銭のせいで、笛の音が失われてしまった」

 餅売りはあわてて金持ちに銭を返し、もとの稼業に戻った。すると、元通りの笛の音が聞こえるようになった。

(清『池北偶談』)