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鄂州の少将


 

 州(がくしゅう、現湖北省)の某少将は、もとは農夫であった。仕官するようになると、名門との婚姻を望んだ。しかし、彼には長年連れ添った妻がいた。
 故郷に戻る途中、少将は妻を殺して河に投げ込んだ。同行した下女も殺してしまった。
 少将は妻の実家に走ると、涙ながらに告げた。
「旅の途中、盗賊に殺されてしまいました」
 人は少将の言葉を信じて疑わなかった。

 数年後、少将は公務で広陵(こうりょう、現江蘇省)へ赴き、旅館に投宿した。
 旅館の前で女が一人花を売っていた。殺した下女とよく似ている。近づいてみると、果たして下女であった。下女は少将に気づくと、お辞儀をした。
「人か? 幽鬼か?」
 少将の問いかけに下女は、
「人でございます。盗賊に襲われましたが、幸いにも命だけは助かりました。ちょうど船が通りかかったので、ここまで連れて来てもらいました。今は奥様と一緒に花を売って暮らしております」
 と答えた。
「妻はどこにいる?」
「お近くにいらっしゃいます」
「会うことはできるか?」
「どうぞご一緒にいらして下さい」
 下女は少将を小路にあるあばら家に連れて行った。
「ここです」
 下女が中へ入ると、しばらくして妻が姿を現わした。
「ああ、あなた、ようやくお会いすることができました」
 妻は涙ながらにこれまでも苦労を語った。少将は妻の話を聞くうちに、だんだん頭がぼんやりしてきた。
「お食事の支度ができました」
 下女が知らせた。少将は妻の後についてフラフラとあばら家の中へ入った。従者は外で存分に酒と食事をふるまわれ、したたかに酔った。
 従者が目覚めると、すでに日が暮れていた。しかし、少将がいっこうにあばら家から出てこない。のぞいてみても、しんと静まり返り、人の気配がしない。不審に思った従者が中に入ると、床中、血まみれで、白骨が一体転がっていた。衣服はずたずたに切り裂かれ、誰のものか判別もつかなかった。
 驚いて隣家に飛び込むと、
「あそこはずっと空き家ですよ」
 とのことであった。

(宋『稽神録』)