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月 光


 

 林(けいりん)に韓生(かんせい)という人がいた。酒好きで、道術の心得があると言っていた。

 ある日、二人の友人とともに河を下ることにし、夜、桂林郊外の寺に泊まった。韓生は寝つかれないまま、瓢(ひさご)で作った杓子(しゃくし)を手に、籠を抱えて庭に下りた。

 たいそう月の明るい晩で、青白い光が庭一面を照らしていた。何をするのかと、友人達が見に出ると、韓生は杓子で月光をすくっては籠へ注ぎ入れる仕草をして見せた。もちろん月光をすくうことなどできるはずなどなく、空っぽの杓子が月光と籠を何度も往復するだけであった。韓生は言った。

「今夜の月の美しさはまことに得がたいものだ。これから先、いつ何時、風が吹いて雨の降る、暗い夜に出くわしても大丈夫なように、こうして月光を取っておくんだよ」

 この言葉に友人達は笑った。

 翌朝、韓生は空の籠と杓子を持って舟に乗り込んだ。友人達は、

「韓さんは無邪気だなあ」

 と言って笑い合った。

 舟は昭平(しょうへい)に到着し、河に臨むあずまやで一休みすることにした。下僕に命じて肴の準備をさせ、街で酒をたくさん買い込ませた。酔いつぶれるまで酒を酌み交わすつもりでいたのだが、強い風が吹き荒れ、灯火が吹き消されてしまうほどであった。これでは酒を楽しむどころではない。一同が途方に暮れている時、友人の一人が思い出したように言った。

「韓さん、この間、取っておいた月光はどこにあるのです?」

 韓生は手を打って笑った。

「すっかり忘れていた」

 急いで舟に戻ると、籠と杓子を取って来た。杓子で籠から何やらすくってまいた途端、青白い光が流れ出してあずまやの梁や棟木(むなぎ)を照らした。このようにして杓子を数十回もふるうと、秋の夜空のように明るくなった。月光はあたりに満ちあふれ、産毛(うぶげ)の一本一本まで見えるほどであった。

 一同は歓声をあげ、夜の更けるまで痛飲した。宴の果てる頃、韓生が杓子で月光を籠にくみ入れると、あたりは暗闇に戻った。

(唐『三水小牘』)