ひ き 臼


 

 州(そうしゅう、現河北省)馬落坡(ばらくは)に一人の女がいた。女は小麦粉を売って姑を養っていた。とても貧しかったので、驢馬(ろば)を飼うことができず、自分でひき臼(うす)を回さなければならなかった。ひき臼を回すのは重労働で、小麦をひき終わるのに夜中の二時すぎまでかかった。女はこうして姑の面倒を二十年あまりも見続け、やがて姑は亡くなった。

 ある日、女は姑の墓参りから戻る途中、二人の愛らしい少女と出会った。少女達は笑みを浮かべて声をかけてきた。
「二十年あまりの間、ご一緒しておりましたのよ。ご存じでしたかしら?」
 女は少女達にまったく見覚えがなかった。
「お姉様、そんな不思議そうな顔をなさらないで。ご存じないのも無理ないわ。私達は狐の姉妹です。あなたがお姑様に献身的に尽くしてらっしゃるお姿に感心して、毎晩、ひき臼を回すのをお手伝いしておりました。思いがけなくも上帝が私達の善行を嘉されて、解脱(げだつ)できることとなりました。お姉様もお姑様へのご孝行が終えられ、私達は神仙の列に加わります。それで、こうしてお別れを言いに来たのです」
 少女達は言い終わると、風のように飛び去ってしまった。

 女が帰宅していつものようにひき臼を回そうとしたところ、びくともしなかった。

(清『閲微草堂筆記』)