冠の紐


 

 隆年間(1736〜1795)のことである。さる大臣、輪番で帝の御前に侍る時、冠の紐が切れた。新しい紐をつけようにも、時間がない。
「陛下に見とがめられたら大変だ」
 慌てた大臣、部下から筆を取り上げると、顔を取り囲むように線をひいた。
「これで紐に見えるだろう」
 これを伝え聞いた人は皆、吹き出した。

(清『嘯亭雑録』)