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衡州の老人


 

 州(こうしゅう、現湖南省)に一人の老人がいた。かれこれ三十年あまり生姜を担いで売って回っているのだが、少しも年を取らない。ある人が年を取らない理由をたずねると、

「家が回雁峰(かいがんほう)の向こうにあるおかげで、人に煩(わずら)わされんですみますのじゃ」

 と答えた。

 ある日、道士がこの老人を茶店に招いて言った。

「それがしには錬金術(れんきんじゅつ)の心得(こころえ)があります。徳の備わった者にこの術を授けようと思っておりました。ご老人はこの数十年行い正しくお暮らしですから、一つ、この術をお授けしましょう。いかがですかな?」

 すると、老人はニコニコ笑って生姜を一かけら口に含んだ。しばらくして吐き出すと、黄金に変わっていた。

「その術ならワシも心得ておるのですが、何の役にも立たんのですよ」

 茶店に居合わせた人々は驚いて、老人と道士を取り囲んだ。そのまま老人は立ち去ったのだが、二度と人前に姿を現わさなかった。

(宋『投轄録』)