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秦 巨 伯


 

 邪(ろうや、現山東省)に秦巨伯(しんきょはく)という人がいた。年はすでに六十であったが、すこぶる頑健(がんけん)であった。
 ある夜、酒を飲んで帰宅する途中、蓬山廟(ほうざんびょう)の前を通りかかったところへ、
「おじじ様」
 と、二人の孫が迎えに来た。
「お帰りが遅いので父さんが心配してます。さ、肩につかまって」
 そう言って、巨伯の両肩を支えて歩き出した。百歩ばかり行ったところで、いきなり巨伯を地面に押し倒した。
「この老いぼれめ。いつぞやはよくもむちで打ってくれたな。今日こそ、お前を殺してやるぞ」
 確かに巨伯は孫をむち打ったことがあった。巨伯がとっさに死んだふりをすると、孫達はその場に放置して立ち去った。
 帰宅した巨伯は二人の孫を呼びつけて折檻(せっかん)しようとした。孫達は驚き恐れ、地面に額を打ちつけた。
「孫である私達にどうしてそんなことができましょう。幽鬼かもののけにたぶらかされたのではありますまいか。どうかお確かめになって下さい」
 巨伯も孫達の言い分をもっともだと思った。
 数日後、巨伯は酔ったふりをして、蓬山廟の前を通ってみた。果たして二人の孫が現われて、巨伯の両肩を支えようとした。それを巨伯は抱え込み、家まで引きずって行った。家に着いた時には、孫達は二体の木の人形に変わっていた。火をつけると、焼け焦げたが、闇夜にまぎれて消えてしまった。巨伯はもののけを殺せなかったことを惜しがった。

 一月あまり経った夜、巨伯は懐に刀をひそませて蓬山廟の前へ行き、酔ったふりをした。家族はこのことを知らなかった。
 真夜中になっても巨伯が戻って来ないので、二人の孫はまたもののけにたぶらかされのではないかと心配して迎えに行った。巨伯は孫達の姿を見ると、懐から刀を取り出した。
「もののけめ、今度こそ殺してやる」
 そして、孫達を刺し殺した。

(六朝『捜神記』)