天女の婿


 

 口(けいこう、現江蘇省)に徐郎という男がいた。家はたいそう貧しく、いつも河の入り江で流れてくる柴を拾っていた。

 その日もいつものように入り江で柴を拾っていると、突然、水面に何艘もの立派な船が現われた。船は入り江に向かって進み、徐郎の目の前に停泊した。徐郎がぼんやりながめていると、船上から立派な身なりをした男が降りて来て、恭しくお辞儀をした。

「天女が徐郎殿の妻になりにまいりました」

 徐郎は驚いて家に逃げ帰り、物陰に隠れた。母や兄妹は嫌がる徐郎を、

「天女が嫁になろうというのに、嫌がるやつがいるか」

 と言って無理やり引きずり出した。

 船から遣わされた使者が入浴の支度をしたのだが、水はたいそうよい香りがするものであった。徐郎を頭のてっぺんから足の先まで磨き上げると、

「こちらがお召し物です」

 と言って紅い緞子(どんす)の着物を贈った。

 準備も整い、徐郎は天女と床入りすることになったのだが、徐郎は寝台のすみに震えながら跪いたまま指一本触れようとしない。翌朝、天女は徐郎から緞子の着物を取り上げて出て行った。

 家族は、

「このばか、阿呆、間抜け。せっかくもらえるものまでもらえなくなってしまったではないか!」

 と、あしざまに罵った。ほどなくして徐郎は心労で亡くなった。

(六朝『幽明録』)