長江の女
東晋の隆安年間(397〜402)のことである。
陳懐という人が長江の岸辺に網を仕掛けておいた。潮が引くと、その仕掛け網に一人の女がかかっていた。背丈は六尺ほど、非常に美貌で身に一糸もまとっていなかった。水が引いたため動けないのであろうか、砂の中に転がったままである。話しかけても言葉が通じないようで一言も答えない。その内に女の美貌を見ていたずらをしかける者も出てきた。しかし、女は抵抗できずにじっと恨みがましい顔をしていた。
その夜、懐の夢に女が現れ、こう言った。
「妾(わらわ)は長江の鰉魚神じゃ。昨日は道を間違えて汝の仕掛け網にかかったところを小者に辱めを受けてしもうた。今から天帝に訴えて妾を辱めた者を殺してもらうぞよ」
夢から覚めた懐は、あえて女を他の場所に移すことは控えた。その体に手を触れて怒りを買うことを恐れたのである。
潮が満ちて女は泳ぎ去った。女にいたずらをしかけた者は、ほどなく病に罹って死んだ。(六朝『祖台之志怪』)