島
昔々のことである。船で東海に乗り出した人がいた。
運悪く時化(しけ)に遭って難破した。船は大破し、舵(かじ)もきかず、ただ風に任せて漂うだけであった。夜空の星を見ても、一体どこを航行しているのかさえわからなかった。
そのように漂流すること一昼夜、孤島に流れ着いた。やれやれ土が踏めるぞ、と一安心。早速、錨(いかり)を下ろして船を舫(もや)うと、上陸して食事の用意にとりかかった。まだ飯も炊き上がらないうちに、突然島が揺れ始めた。船に残っていた者は上陸した者が戻るのも待たずに舫い綱を切って出航した。何とそれは島などではなく、巨大な魚だったのである。
魚は沸き立つような波とともにものすごい勢いで泳ぎ去った。上陸していた十数人がその波に飲まれて死んだ。(漢『西京雑記』)