大蛇の葉
ある役人が南方へ出張した時のことである。山中で一匹の大蛇に出会った。長さ数丈(注:一丈は約3.1メートル)、太さは一尺五寸(注:約46センチ)はあろうかという巨大な蛇だった。幸い満腹のようで役人には見向きもせず、はち切れんばかりに膨れ上がった腹を抱えて離れて行った。大蛇は動くのも大儀なようで、ノロノロと地面を這いずっていた。気付かれないようにその跡をつけて行くと、大蛇はある一本の樹に近寄ってその葉を食べ始めた。すると、不思議なことに膨れ上がった腹が見る見るしぼんでいくではないか。最後にはぺしゃんこになってしまった。大蛇はすっきりした様子で、何処へか這って行った。
村里に下りた後、その話をすると村人の一人が、
「ああ、その蛇は鹿を呑んだで、腹がつかえたんでさあ。あの葉っぱにゃあ消化を助ける力があるようですだ。だども、ワシらは誰もよう試しませんわ」
と教えてくれた。そこで、役人は従者に命じてその葉を摘ませて持ち帰った。出張を終えてしばらく経ってからのことである。その日、役人は知人の家で夕食をたらふくご馳走になって帰宅した。寝ようと思っても腹が苦しくて眠れない。その時、例の葉のことを思い出した。下僕に命じてその葉を煎じて薬湯を作らせた。一気に飲み干すと何だか腹の中だけでなく、体中がさっぱりしたような気がして、そのまま眠った。
翌日、役人の下僕達が集まって何やら言い合っていた。主人の役人がいつまで経っても起きてこないのである。昼になっても起きてこないので、下僕達は主人の寝室の扉を開けた。
彼らが寝台の上に見たのは水たまりに横たわる一体の髑髏であった。役人の体は見事に消化されていた。
(唐『聞奇録』)