長い長い道


 

 東(かんとん)に郭という人がいた。

 ある夕暮れ、友人の所から帰る途中、山中で道に迷ってしまった。しばらく歩き回っていると山の上の方から人の笑い声が聞こえてくる。見ると、十数人の者が車座になって酒を飲んでいた。郭が来たのを見ると声を揃えて迎えてくれた。
「丁度一人欠けていたところです。よく来てくれました」
 帰りの道を尋ねると一人が笑って遮った。
「何て野暮なんだ。この明月を賞せずして帰路を急ぐなんて」
 そう言って盃を突きつけた。その途端、芳香が鼻を打った。芳醇な美酒の香りである。郭は元来酒好きであった上に歩き回って喉が渇いていたので、杯を受け取ると立て続けに十杯も飲み乾した。人々は皆誉めそやした。
「これこそ我らが同志だ!」
 すっかり酔っ払った郭は小用に立った時、茶目っ気を出して燕の鳴き真似をしてみた。鳥の鳴き真似は郭の十八番(おはこ)であった。
 人々は皆不審がって言った。
「こんな夜中になぜ燕が?」
 今度はほととぎすの鳴き真似をした。人々はいよいよ不審がった。
 ますます気をよくした郭は酒宴の輪に戻って坐ったが、ニヤニヤ笑うばかりだった。皆がガヤガヤ論議している中、郭は顔を背け、鸚鵡の声を真似した。
「郭君は酔われたぞ、送って行きなさい」
 ようやく郭の仕業であることに気付き、一同大笑いとなった。

 一人が言った。
「今回は青娘子が来てないのが残念だ」
 他の一人が言った。
「仲秋の夜にまた集まろうよ。郭先生も是非おいで下さい」
 郭は喜んで承諾した。>

 しばらく飲んでいるうちに一人が立ち上がって言った。
「お客人の芸には及びませんが、我々も一つ肩乗りの手品をお見せしましょう」
 ワッと喚声(かんせい)を上げて皆立ち上がった。
 前にいた一番大柄な一人が直立の姿勢で突っ立った。二番目に大柄な一人がその肩の上に飛び上がると、また直立の姿勢を取った。大きい順に次々に立って四人目になるともう高くて登れなかった。どうするのかと見ていると、肩を攀じ登り腕を踏み、梯子を上るように次々に十数人が登り、最後に一番小柄な者が登った。そのさまはまるで人でできた梯子(はしご)であった。
 郭が呆気に取られて見上げている目の前で、突然、人梯子はそのままの形で地上に倒れた。

 あとには月明かりの下に一筋の長い道が黒々と横たわっていた…。

(清『聊斎志異』)