流星
東晋のことである。
大軍閥の桓温が腹心から阿薛、阿郭、阿馬の三人の妓女を贈られた。いずれ劣らぬ美女ぞろいであった。この三人が桓温にかしづくようになってしばらくして不思議なことが起きた。
夜、三人で庭に出て月を眺めていた。そばには銅製の水がめが置いてあった。突然、夜空を流れ星が横切ったかと思うとそのまま水がめに落ちた。驚いた三人が水がめをのぞき込むと、二寸ばかりの火の珠が底でまばゆい光を放っていた。
「これはきっとおめでたい験(しるし)よ。一体、誰に当たるのかしら」
まず阿薛が、続いて阿郭が柄杓(ひしゃく)で火の珠をすくおうとしたが、珠は転がりまわってすくえない。まるで逃げているかのようであった。最後に阿馬が挑戦したところ、珠の方から柄杓に転がり込んできた。珠ごと柄杓の水を飲み干した阿馬は不思議な気持ちになり、ほどなくして懐妊の兆しを見せた。こうして生まれたのが桓玄である。後に桓玄は帝位をうかがい、簒奪者となった。その天下は長続きしなかったとはいえ、栄華を極めた。果たして流星は吉祥だったのである。
(六朝『捜神後記』)