網にかかっていた物
ある人が浜辺に網を仕掛けた。夕方になって網を引き揚げると、かかっているものがある。ヒトデかと思って拾い上げてみれば、何とそれは人間の手であった。
初めは鮫に食われた人の残骸かとも思ったが、手首の部分はツルンとしてきれいである。ひっくり返してみると、手の平には耳、目、鼻、口のようなものが並んでいた。それはまるで人の顔のようであった。瞬きをしたり、口をモゴモゴ動かしはするのだが、どうも話すことはできないようである。その人は物珍しさからしばらくいじくっていたが、何か祟りがあっても、と考えて海に放すことにした。立ち去り際に突然背後で、「ドヒャヒャヒャ!」
と笑い声が響いた。驚いて振り返ると、例の手の平が水面で大きく跳ね上がった。そして、そのまま水に飛び込んで見えなくなった。
(宋『稽神録』)