紫姑神さま
紫姑神(しこしん)は民衆に広く信仰されている神である。言い伝えによるとある人の妾だったという。本妻に嫉妬され、いつも汚い仕事ばかりさせられていたが、あまりの辛さに耐えかねて正月の十五日に自ら死んでしまった。この薄命を哀れんだ人々は正月十五日になると人形を作り、妾の魂を呼び出す。これが紫姑神である。
まず、人形を持って厠(かわや)や豚小屋のそばに行く。妾は生前、厠や豚小屋の掃除をさせられていた。そして、次のようなまじないを唱える。
「子胥(ししょ)はお留守」
子胥とは妾の主人の名前である。
「曹姑(そうこ)も里帰り」
これは本妻の名である。
「小姑さん、いらっしゃい」
こう呼びかけると、人形が重く感じられる。人形に神が宿ったしるしである。そこで、酒や果物を供えると、人形の顔が輝き、飛び跳ねて止まらなくなる。諸事の吉凶や、耕作、養蚕の豊凶を占うのはこの時である。
また、この神は射的が得意である。機嫌のよい時は盛んに飛び跳ねるが、そうでない時は仰向けに転がったままでうんともすんとも言わない。
平昌の孟という人はこの神のことを信じていなかった。ある時、自分で試しに人形を作って神を呼び出してみた。すると、人形は勢いよく跳ね上がり、そのまま屋根を突き抜けて飛び去ってしまった。どこへ行ってしまったのかはいまだにわからない。(六朝『異苑』)