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鬼、鬼、鬼!(三)


 

「だ、だ、旦那様、大変です!!」
 管理人は樊生の父親のもとに駆け込み、今見たことを報告した。あわせて昨夜見た怪異も告げた。父親が早速、別宅に出向いて二階に上がってみると、すでにもぬけの殻であった。御寮さんと小間使いの正体は幽鬼だったのである。
 御寮さんは小間使いを連れて白昼堂々樊家に乗り込み、あでやかに着飾って舅姑に嫁として挨拶をした。樊生の父親はこの事態を憂えた。大事な一人息子があろうことか幽鬼に魅入られてしまったのである。
 そこで、幽鬼を調伏(ちょうぶく)してくれる術士を捜し求めた。たにし売りの張生が腕が立つと聞き、早速、招いた。御寮さんは張生を見ても顔色一つ変えない。
「あたしはきちんとした家の娘なのに、見合いの席でここの坊ちゃまに手込めにされたのよ。悪いのはどっち?こんな恥をかかされて、あたしはどこへ帰ればいいの?」
 張生が言葉を尽くしてなだめると、
「それほど言うのなら、今日のところは引き下がってあげるわ。でもね、このままにはしておかないからね」
 とすて台詞を残して、御寮さんはつむじ風とともに姿を消した。

 それから一月あまり、樊生には何の変事も起きなかった。ある日、友人の李と連れ立って南の嘉会門から郊外へ遊びに出た。李は酔った勢いで趙生という役人といざこざを起こし、樊生とともにその場から逃げ出した。近道をしようと慈雲嶺(じうんれい)を回って銭湖門へ入ることにした。慈雲嶺にさしかかったところで、突然大雨が降り出した。人家を見つけたので、雨宿りをさせてもらうことにした。
 人家には喪服をまとった老女がいた。
「顧六の女房にございます。夫が亡くなってまた一月になりません」
 そう話すうちにも雨はますますひどくなり、日はすっかり暮れてしまった。
「このままだと今日中に城内に帰るのは無理ですね」
 そう言って老女は二人のために寝床を用意してくれた。そして、樊生をちらりと見た。
「昇陽宮でお会いした時には王老娘にだけ酒をおごっておいて、今度はあたしに助けを求めるとはね」
 李は樊生が幽鬼に魅入られたことを知っていたので言った。
「どうして君のことを知ってるんだい?まさかここの奥さんも…」
 二人はあまりの恐ろしさに寝床に上がることもできず、肩を寄せ合ってガタガタ震えるばかりであった。

 

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