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鬼、鬼、鬼!(四)


 

 中に激しく扉を叩く音がした。
「顧六はおるか」
 としきりに呼ぶ。樊生と李がうかがい見ると、黒衣をまとった役人が押し入ってきて棺(ひつぎ)から老人を引きずり出した。
「二人の客人をしっかり見張れよ。絶対、帰してはならん」
 樊生と李は震え上がり、こっそり裏口から逃げ出した。見れば荒れ果てた丘には灯りが並べられ、緑色の上着のいかめしい役人が机に向かって何やら決裁していた。傍らに、下役人に見張られた顧六とその女房がかしこまっている。その隣には麗人が控えていた。腰のところで上半身と下半身が縫い付けられているのだが、縫い目がゆるんでずれている。陶の御寮さんであった。
 樊生と李は恐怖に駆られて走り出した。一里あまりも走った頃、杵(きね)をつく音が聞こえてきた。音を頼りに走っていくと、人家の灯りが見えた。
「やれ、ありがたや」
 二人は扉を叩いて助けを求めると、主人は快く迎え入れてくれた。
「あっしは雍三といいます。蒸し餅売りです。今ちょうど粉をひいていたところですよ」
 樊生と李は自分達の見た怪異を語って聞かせた。すると、雍三はただ笑うだけ何とも答えない。二人は妙だと思いながらも、ひとまずは助かったと胸をなでおろした。
 そこへ、轎かき人夫の掛け声が聞こえてきた。窓から外を見てびっくり。王老娘が陶の御寮さんの轎を先導してきた。後ろには小間使いもいる。おまけに顧六とその女房までやって来たではないか。
「見つけたぞ!」
 幽鬼達は一斉に樊生と李に襲いかかった。樊生と李も腕を振るって防戦したのだが、多勢に無勢であっという間に打ち倒された。幽鬼達がそれをよってたかって袋叩きにしているところへ、
「統制閣下のお通りであるぞ」
 と露払いの声が響いた。早朝に出仕する某統制が従卒百人ばかりを引き連れて通りかかったのである。幽鬼達は蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。
 統制は草むらから聞こえる苦しげなうめき声を耳にした。従卒に見に行かせると、果たして樊生と李が息も絶え絶えに倒れている。助け起こして湯を飲ませたところ、何とか息を吹き返した。城門が開くのを待って、家へ送り帰らせた。
 後日、聞いた話によれば、陶の御寮さんは張郡王の側室だったが、外に愛人を作り、主人に腰を真っ二つに斬られて殺されたとのこと。王老娘は新門外に住んでいたが、これも密通を手助けした咎(とが)で殺された。顧六夫婦も雍三も皆、死んだばかりで最近、慈雲嶺に葬られたばかりだという。

 この怪異は紹興末年(1162)に起きたと聞いている。

(宋『鬼董』)

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