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業病(七)


 

 の麻瘋病は恐ろしい伝染病で、家庭内で一人が発病するとたちまち全家に伝染する。それを防ぐために当地の地方長官が設けた隔離施設が麻瘋局である。食糧は支給されるが、治療らしい治療を施されることはない。ただ、病人はよどんだ空気の中でじっと死を待つのであった。
 綺が邱家を去って間もなく、麗玉の両親は娘の首筋に浮き出た紅い染みを発見した。母がその体を調べてみると、清らかなままであった。父は娘を詰り、罵った。
「この親不孝者が!そんなに早死にしたいのか」
 そして、その日のうちに麗玉を麻瘋局に送った。
 麻瘋局で麗玉は何度か首を吊ろうとした。そのたびにどこからか色白のあばた面で淮南訛りの老人が現れて麗玉を救った。おかげで麗玉は死ぬこともできず、かと言ってほかの病人のように自分の身が朽ち果てていくのを待つのは耐えられなかった。いつしか麻瘋局を出たいと思うようになった。ここを出て綺の住む淮南に一歩でも近い所で死にたいと思った。すると、またあばた面の老人が現れた。道中、案内をしたいと言うのである。
「ワシは黄と言って淮南の生まれじゃ。娘さん、あなたは陳綺を尋ねようと思っておられるのではあるまいか?彼とは古い知り合いのようなものじゃ、一緒に行けば何かと役に立つと思うが」
 自分は業病を背負う身だから迷惑をかけたくないと躊躇(ちゅうちょ)する麗玉に黄老人は笑って答えた。
「もうワシも年じゃよ。今更、何を恐れる必要があるかの。それにお前さん一人でここを出ることができるかね」
 麻瘋局は厳重な隔離施設で入るのは簡単であったが、出るのは容易なことではなかった。麗玉は出発を促す黄老人と共に早速、出発したのだが、不思議なことに麻瘋局の厳重に閉じられた扉は二人の前で次々と開いた。このようにして難なく麻瘋局を抜け出すことができた。
 久しぶりの外気は心地よく、体にまとわりつくよどんだ空気を洗い流してくれるようであった。しかし、これだけ歩いただけで麗玉の足はひどく痛んだ。纏足(てんそく)をしている上に、麻瘋病で足の筋がかなりこわ張っていたからである。黄老人は手に唾を吐き出して麗玉の小さな両足を包むと、何やら呪文を唱えた。すると、痛みが嘘のように引いて普通に歩けるようになった。
「小父様、父に捨てられた私にとってあなたは実の父も同様です」
 麗玉は跪いて感謝の意を述べた。
 淮南までの路銀は麗玉が銀の腕輪を売って工面したのだが、湖南に入った頃にはその路銀も底を突き、道々乞食をしながら旅を続けることにした。
「麻瘋だ、麻瘋女だ」
 人々は麗玉の姿を見ると、病を恐れてピッタリと扉を閉ざした。子供達は石を投げつけてきたが、黄老人が身を以てかばってくれた。犬をけしかける者もいた。しかし、黄老人の吹く洞簫(注:笛の一種)に合わせて麗玉が歌い出すと、人々はその乱暴な振る舞いを止めた。
 麗玉は己の運命の悲惨さと綺への思慕を歌った。黄老人の洞簫の音色は哀切で、麗玉の憂愁に満ちた歌声は聞く人の心は揺さぶった。人々は麗玉に深い同情の念を寄せ、病への恐怖も忘れて食事や路銀を振舞った。
 麗玉達が淮南に着いたのは広東を出てから半年後のことであった。

 

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