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南柯の夢(三)


 

 嫁は年若く、仙女のように麗しかった。作法にのっとって杯ごとを済ませると、淳于[林+分]には改めて祝福の言葉と山のような祝いの品が贈られた。
 それからというもの、淳于[林+分]の公主への情愛は日ましに深まり、国王の信頼は日ましに厚くなっていった。出遊する時も、宴遊の際も、彼には国王に次ぐ席が与えられた。
 ある時、淳于[林+分]は国王に一つの疑念をただした。
「大王様は我が父のことをどうしてご存知なのでしょう。父は先年、夷狄(いてき)との戦いの最中、消息を絶ったきりもう十七、八年になります。 その所在をご存知ならば、どうか教えてくださいませ。一度、会いに行きたいのです」
 すると、国王は、
「父君は北辺警備の要職についておられ、頻繁に手紙をお寄越しじゃ。手紙で様子を知らせればよい。後々、会うことはできる。今はその時ではないから」
 と言って、淳于[林+分]をとどめた。淳于[林+分]は妻に舅へあいさつの料理を作らせると、手紙をつけて送り届けさせた。
 父からの返事は二、三日後には届いた。筆跡も言葉遣いもすべて父のものであった。手紙には我が子への思いが綿々と綴られていた。また、親戚や故郷の近況をたずねてもいたが、その言葉の端々からは哀切な郷愁の念がにじみ出ている。さらに淳于[林+分]が手紙で会いたい旨を知らせたことに対しては、
「今はその時ではない。丁丑の年になったら会えるから」
 と答えてあった。
 それからは特に変わったこともなく時が過ぎていった。くしゃみをしてもあくびをしても夢のような日々から覚めることはなかった。

「あなたは政務にはご興味はおありでしょうか」
 突然、公主が淳于[林+分]に向って言った。
「私は根が放蕩(ほうとう)者ゆえ、政治のことにはトンと疎いのだが」
 淳于[林+分]がこう答えると、公主はニッコリ笑った。
「そんなことやってみなければわかりませんわ。私がお手伝いいたしますから」
 数日後、淳于[林+分]は国王に召し出された。
「我が国の南柯(なんか)郡は政がいたく乱れ、先の太守は免職となった。ここは御身の知恵を借りたいのじゃが、承知していただけまいか。承知の上は、娘も共に任地に送ろうから」
 彼はつつしんで受けることにした。
 淳于[林+分]と公主の出発に際し、国王と王妃は都の南郊まで見送ってくれた。国王は言った。
「南柯は我が国の大郡じゃ。土地は肥沃(ひよく)で、住民は派手好みぞ。仁と智をもって治めることが肝要じゃ。御身は責任を持って力を尽くされ よ。是非とも国家の期待に添うように」
 王妃は公主にこう注意を与えた。
「淳于殿は剛直でお酒好きじゃ。そなたは妻として優しくお尽くしなさい」
 都を後にした淳于[林+分]夫婦は楽しく語り合いながら、泊りを重ねた末につつがなく南柯郡に到着した。

 淳于[林+分]は早速、政務にとりかかった。民風を詳細に調査してそれに合った政策を立て、貧者には救済の手を差し伸べた。幸い、公主をはじめとする賢い補佐役にも恵まれ、郡中は非常によく治まった。
 またたく間に二十年余りもの歳月が流れた。その間、南柯郡はますます栄え、病と飢えの脅威とは無縁であった。領民は記念碑を建て、淳于[林+分]の徳を称えた。国王も彼の功績を認めてたいそう尊重し、領地と爵位を与え、宰相の地位を授けた。公主は淳于[林+分]のために五人の息子と二人の娘を生んだ。息子達には王族の子弟に見合った官職が授けられ、娘達は王族へ嫁いだ。淳于[林+分]の栄光はいまや絶頂に達した。
 この栄光の最中にある淳于[林+分]を大きな不幸が見舞った。それはあまりにも突然すぎる公主の死であった。

 

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