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画皮(三)


 

 郎は仰天した。
「まさか…」
「誰か見知らぬ者が訪ねて来ませんでしたか?」
 道士の問いかけに二郎は、
「私は義姉に言われて今朝早く青帝廟に出かけましたので、家に誰か来たか知らないのです。すぐに家族に聞いてみましょう」
 と言って駆け出して行ったが、すぐに戻ってきた。
「今朝、老婆が一人、下働きに雇ってほしいとやって来たそうです。家内が私の許可を得てからということで、引き止めております」
 道士は膝を打って、
「そやつじゃ」
 そして、南の離れに行くと、庭の真中に仁王立ちになり、木剣で地面を突きながら大音声で呼ばわった。
「妖怪め、ワシの払子を返せ!」
 すると、部屋の中の老婆はサッと顔色を変え、扉の隙間から逃げ出そうとした。道士が追いすがって木剣で撃ちかかると、老婆はバッタリと倒れた。同時にその体から人間の皮がガバッとはがれ落ち、恐ろしい妖怪の姿が現れた。
 妖怪は豚のような鳴き声を上げながら地面を転げ回った。道士が木剣でその首を打ち落とすと、体の方はたちまち濃い煙となった。煙はわだかまったまま地面を這い回った。道士は瓢(ふくべ)を取り出し、その栓を抜いて煙の中に置いた。すると、煙は見る間に吸い込まれ、あとかたもなくなった。
 道士は瓢に栓をして袋に入れた。人間の皮は地面に落ちたままであったが、眉も目も手も足もすべて揃っていた。道士が拾い上げて巻くと、掛け軸 を巻くような音がした。これも同じ袋に入れ、別れを告げて立ち去ろうとした。陳氏は道士の前に跪いて引き止めると、泣きながら夫を生き返らせてほしいと頼んだ。道士が自分にはできないと断ると、陳氏はなおも懇願を続け、地にひれ伏したまま立ち上がろうとしない。
 道士はしばらく考え込んでからこう言った。
「奥さん、ワシは術が浅く、死人を生き返らせることはできませぬ。しかし、あなたの嘆きようを見捨てるに忍びない。代わりによい人を教えて進ぜ よう。その人ならできるかもしれませぬ。行って頼んでみなされ」
「それはどなたでしょう」
「いつも街のごみための中で寝ている頭のおかしい乞食ですよ。ていねいに頼んでみるのです。奥さんに失礼なことを言って辱めにかかると思いますが、怒ってはなりません。その通りにするのですよ」
 二郎がその乞食を知っているとのこと。そこで、陳氏は道士を見送ると、早速、二郎とともにその乞食を訪ねて行くことにした。
「ああ、あれです」
 二郎の指さした先では一人の乞食がごみための中に寝転がり、意味不明な言葉を大声でわめき散らしていた。三尺も洟(はな)を垂らし、汚らしいことこの上なかった。

 

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